IMPACTISM “OUR FUTURE” は慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート (KGRI) による2040独立自尊プロジェクトによって生まれた、学生による番組です。2040年には未だ人類が経験したことがない超高齢社会が到来し、私たちの生活はもとより、国の基盤も揺るがすような危機に直面すると考えられています。この「2040年問題」に対して、大学での学びが将来どこに結びつくのか、未来を担う学生の目線で今とこれからを発信していきます。
IMPACTISM “OUR FUTURE” #2-4: 機械翻訳の時代における 外国語との付き合い方
Season2 第4回では、学部4年の小栗章太郎さんが、”外国語学習”をテーマにお話しします。
私たちは一体なぜ、外国語を勉強するのでしょうか?学校や職場で英語が必要とされているから、という説明だけでは納得できない気がします。そもそも、これから機械翻訳が加速度的に発達していく状況で、多大な時間と労力を費やして外国語を学ぶ意味などあるのでしょうか?今回はこれらの問いに答えるヒントと、「外国語学習の意味がこう変わるかもしれない」という可能性を提示します。
時事トピックスは、”自衛”についてです。特にインターネットに関する事例を取り上げながら、身近すぎて軽視しがちなリスクから身を守る方法についてお話しします。
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以下全文
皆さんこんにちは。慶應義塾大学4年の小栗章太郎です。
慶應義塾大学KGRIによって活動している私たち学生によるポッドキャスト。2040年という未来までに日々大学で学んでいる私たち学生に何ができるかを話していく番組です。
学問はどのように変化していき、そして今学んでいることはどこに辿り着くのか。時事のニュースや話題を、共に語っていきたいと思います。
突然ですが、あなたは外国語の勉強が好きですか?日本の学校では、多くの生徒が中学から高校まで英語を勉強し、大学では「第2外国語」として英語以外の言語をもう1つ履修します。「ゲーム」や「コンピュータ」など日常には外来語が溢れていますが、初めて「外国語」として意識したのは中学へ上がって英語に出会った時ではないでしょうか。その出会いは、あなたにとってどのようなものでしたか?
私の予想では、おそらく外国語はあまり良い印象を持たれていないと思います。当たっているでしょうか?確かに英語は覚えることが大変多く、不規則な変化も多いためアレルギーを起こしてしまう方もいると聞きます。大学でも、第2外国語はみんなの嫌われ者です。出席は取られるし、辞書は重いし、ネイティブの先生は日本語を話してくれないし、正直興味ない。こんな空気が教室中に充満しています。米国現代語文学協会によると、アメリカの大学でも外国語履修者数は2009年をピークにどんどん減少しており、外国語嫌いは日本だけではないようです。
そもそも、機械翻訳が着実に発達しつつある現代において、あえて多大な時間とお金と労力をかけてまで外国語を学ぶ意味とはなんでしょうか?YouTubeの字幕のように、目の前にいる外国人が話していることが翻訳され、ホログラムで空中に浮かべば理解しやすいと思いませんか?私は外国で暮らしていた時期がありますが、思ったことが上手く伝わらないもどかしさ・悔しさから「いっそのことみんな母語がわかれば良いのに」と感じたことが何度もあります。耳に取り付けた機械によって相手の声が母語に自動変換されたり、脳内で念じた言葉が翻訳されて相手の脳内にダイレクトに届く「脳波翻訳」が実現されたり、外国語習得ファイルを脳にダウンロードできたりしたらどんなに楽でしょう。あなたなら機械翻訳という技術にどんな未来を想像しますか?
それでは次に、機械翻訳の時代に外国語を学ぶ意義とは?を考えていきます。あくまでも私の意見ではありますが、結論から言ってしまえば、私はいつの時代も外国語を学ぶ意味は変わらないし、全ての人が外国語を学ぶ必要などないと思っています。外国語と格闘するのは翻訳家の皆さんにお任せして、私たちは母語に翻訳されたものだけを楽しめば良いと思いませんか?例えば私は外国に住んでいたことがあり、少々早口の英語でも理解することができます。しかし、海外メーカーが日本語訳のwebサイトを出していたら、間違いなく日本語のサイトへ飛びます。その方が速く情報収集できるからです。洋画を観る時も、音声は英語ですが日本語字幕をつけて見ます。なぜなら面白おかしく翻訳してあり、映像とセットで2倍の楽しみが得られるからです。目的もないのに、わざわざ苦しい思いをして外国語を学びたいなどと思う人がいるでしょうか?だから私は、全ての人が外国語を学ぶ必要などないと思うのです。言葉そのものに対してでもそれ以外でも、何か目的があって、そのために外国語が必要であれば勉強するという流れが、本来あるべき外国語との付き合い方なのだと思います。
では外国語を学ぶ興味や目的がない人はどうすれば良いのか?そんなあなたに朗報です。おそらく機械翻訳によって、外国語学習の比重が比較的軽くなるでしょう。プログラミングを知らなくてもスマホやパソコンを使えるように、外国語を知らなくても、言葉の通じない人どうしで交流ができるようになる未来が近づいて来ています。事実、Googleは人間の作ったジョークをも説明することができるPathways Language Model (PaLM)と呼ばれる言語モデルを開発しています。ジョークを解釈できるのは人間の特権だと思っていた私には少し衝撃でした。ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が実用化されるのは、時間の問題かもしれません。
とは言え、安価で小型の翻訳機が現代のスマホのように広く普及するまでは、引き続き外国語の授業が開講され続けるでしょう。そしてこれからは「グローバルな時代に必要だから」という理由だけでなんとなく英語を学習させられるのではなく、機械翻訳普及を見越した目的へと変わっていくでしょう。すなわち、どういう仕組みでwebサービスやアプリが動いているのかを知るためのプログラミングと同じように、ある言語と別の言語では語どうしの関係性がどのようになっているのか、翻訳の仕組みを知るために外国語を勉強する必要があるのだと思います。もしかしたら、そのうちにコードを書くプログラマーではなく、複数の言語で作品を書いて文化的な領域で活躍する多言語使用者、ポリグロットが新しい仕事のカタチとして注目される時代が来るかもしれません。
また、外国語を勉強する意義の第2として日本への移民の受け入れがあります。すなわち、英語をはじめとする諸外国語を必死で勉強した経験があるからこそ、移民がどれほどの苦労をして日本語を習得しているのかが想像できるということです。さらに、共にこれからの日本を作っていくパートナーとして移民を受け入れていく中で、お互いのことをよく知ることは必要不可欠でしょう。そんな時、カタコトの外国語でも話すことができれば、彼らと彼らの文化を受け入れようとしていることが有効に伝わり、より良い関係を築くきっかけになるのではないでしょうか。機械翻訳を使って彼らの文化について勉強した知識を披露することはできますが、同じ内容を彼らの言葉を使って伝えた時に与える印象の方がずっと強いと思います。
どうしても外国語の勉強が嫌いな人は、趣味や特技に磨きをかけて同じ趣味を持つ海外の人と触れ合ってみましょう。私自身が海外に住んでいたときに体験した実例として、同じチームでスポーツをしたり、同じバンドで演奏をしたりすれば、言葉が通じなくても互いの存在を認め合うことができるようになります。おそらくあなたも、何度も同じメンバーどうしで顔を合わせているうちにもっと仲良くなりたいと思うでしょう。そう思えたその時から言葉を勉強すれば良いのです。もちろん準備しておくことは大切ですが、「いつか海外に行く時に〜」「将来役に立つから〜」などの「べき論」では大半の人は本気で勉強できないのではないでしょうか。まず実戦に望んで、「やりたい!」と思えたものができてから始めてもきっと遅くはありませんよ!例えば昨今は韓国語学習ブームで、書店では英語に匹敵するくらいのスペースを確保しています。これはK-POPや韓流ドラマ、コスメやファッションの影響を受けて言葉にも興味を持つようになった人が増えた結果でしょう。繰り返しになりますが、何か言語以外の興味があって、そこから発展させて言葉にも興味を持つ、という流れが本来あるべき外国語との付き合い方なのではないでしょうか。だから私は、機械翻訳が発達しようがしまいが、全ての人が外国語を勉強する必要はないと思うのです。
さて、最後に少しだけ私の外国語学習歴の話をさせてください。海外に住んだ経験があると言いましたが、私は5年間アメリカに滞在していました。そこでは英語は「日常で使わざるを得ないもの」であったため、特に「外国語」として意識することや「勉強」しているという感覚もなく、自然と身についていきました。このような意味で、私が初めて外国語と出会ったのは、アメリカの高校へ入学した時に選択したスペイン語です。単語のリストとスペイン語の文章を与えられて、文章に関する問題を解くという作業には辟易していました。私も私のクラスメートも、語学の授業は苦手でしたね。大学入学時には「既に学習経験のある英語を勉強するよりも、できることを増やしたい」という理由から中国語とスペイン語を選択しましたが、積極的に取り組む訳でもなく、専門科目よりはマシという消極的な評価を下していました。
そんな私の見方が少し変わったのは、交換留学へ行くことが決まってドイツ語を独学で始めた頃のことです。何かができるようになると嬉しいのは普遍的な経験だと思いますが、私にとってのそれはたまたま外国語でした。元々ローマ数字や元素記号、数学記号などの形が好きだった上に音に敏感でもあったので、不思議な文字や音のバラエティーに富んだ外国語を好きになるのはもしかしたら必然だったのかもしれません。
そうして留学中もドイツ語の勉強を続けましたが、中途半端に数言語がわかる「宙ぶらリンガル」にはなりたくなかったので、帰国後は中国語1本に絞り1から独学で勉強し直しました。この時までの外国語学習目的はずっと「できることを増やし、自信をつける」だったので特にスペイン語圏や中華圏に興味があったわけではありませんが、やると決めて熱中できさえすれば、きっと目的なんて何でも良いのです。
もしも文字や音に興味のある方がこの配信を聴いてくださっているなら、白水社の『ニューエクスプレスプラス』シリーズをお勧めします。2022年8月10日現在で世界59言語をカバーした入門書で、私は文字を事典として読み、音声を音楽として聴いています。エチオピアで話されているアムハラ語のアムハラ文字やラオスで話されているラオ語のラオス文字、ジョージアで話されているジョージア語のジョージア文字のかわいさなんてもうたまりません。個人的に最も度肝を抜かれたのはミャンマーで話されているビルマ語のビルマ文字で、もはや文字ではなく数学記号のようです。気になる方はぜひこの後「ビルマ文字」で検索してみてください。
さて、少々言語愛が溢れてしまいましたが、私の考えは変わらず「全ての人が外国語を勉強する必要などない」です。しかし機械翻訳が普及するまでにはあと少し時間がかかりそうですね。なのでその間は、趣味や特技を磨いて多少強引にでも外国語と結びつけてみましょう。そうすれば、嫌だった外国語の授業にも多少は前向きに取り組むことができると思いませんか?共通の趣味を持つ外国人のグループと知り合えば、もしかしたら言葉をもっと勉強したいと思うかもしれません。外国語はわからないことだらけで何度も挫けてしまいそうになりますが、やればやった分だけ習得できるという、努力が平等に報われる分野だと思います。諦めたくなったら、何のために勉強しているのかを思い出し、常にもう1日だけやってみてください。そうすれば、「なんかわかってきたかも!」と思う瞬間が必ず訪れます。かつて外国語嫌いだった1言語好きとして、密かにあなたを応援しています。
今日の気になるトピックス!
今日の気になるトピックスは、自衛・護身・保護についてです。ご覧になった方も多いとは思いますが、先日中国が台湾沖で軍事演習を開始したというニュースが報道されました。北朝鮮の動向も気になりますし、ロシアとはエネルギーや北方領土をめぐって緊張関係が続いています。国内でも、相次ぐ電車内での殺傷事件やDV、煽り運転、通り魔事件、放火など物騒な出来事が紙面上を騒がせては消えていきます。不用意に対立や不安を仰ぐつもりはありませんが、私たちは「守られる」ことに慣れすぎてはいないでしょうか。日本は世界的に見れば安全な国かもしれませんが、いつまでも財布が交番に届けられたりする国では居られなくなってきているように感じます。
身体的な安全のみならず、情報空間の安全の確保も重要です。オンライン広告などに使用される、クッキーという個人情報管理のシステムを廃止する動きが出ていますが、私たちは個人情報の価値やそれを悪意から守る術を知る必要があります。国際的なハッカー集団の台頭やSNSを武器として使った戦争、フェイクニュースや情報操作、コンピュータウイルスなど新時代の脅威に操られないための素養も、意識的に学ばなければ自分の命や財産を守れないかもしれません。
今日からできる対策として、webサービスや端末の個人情報設定を見直してみましょう。むやみに個人情報を取られていませんか?レコメンド機能の餌食になってはいないでしょうか?デフォルトの設定で使用していたので気に留めていなかった、という方はこれを機会に意識してみるとより安全にインターネットを使用できるかもしれません。例えば私は、アプリからの学習やアプリをサジェストする機能を全てオフにしています。位置情報の取得は、地図アプリ使用時以外では一切許可していません。さらに、一度電車内でインターネット回線の乗っ取りを経験してからは、充電と通信料の節約も兼ねて終日機内モードにしています。もちろん通知も最小限で、メッセージはたまたまチェックした時にしか返信しません。通知音が鳴る度に集中力が途切れてしまうのは非常に非効率であり、私は自分の時間を守るために機内モードにしているのです。これら個人情報にまつわるもの以外でも、目を保護するために色々と設定を変更しています。具体的には、終日夜間モードに設定し、その上でホワイトポイントを2割減らし、さらにディスプレイの照度を落として使っている他、色の違いを楽しむ時以外はカラーフィルターをかけて全てをグレースケールで表示させるまで徹底しています。一度悪くなった目は良くなりませんから、用心に越したことはありませんよね。
バーチャルな世界は気軽ですし、自分が見たいものばかり見せてくれるので居心地が良いです。しかし、本当にやむを得ない場合以外は、しばし0と1の空間からログアウトして、はるかに色彩豊かで快も不快も織り込まれた、リアルな世界を楽しんでみてはどうでしょう。
今回の配信はいかがでしたか。
日々の出来事の疑問、社会、経済、文化、環境、国際的なトピックを若者独自の目線で、リスナーの皆さんと共に考え作っていく番組です。時代と共に変化していく学びについて、少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。次回も楽しみにしていてください。
以上、慶應義塾大学4年の小栗章太郎がお送りいたしました。