IMPACTISM “OUR FUTURE” は慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート (KGRI) による2040独立自尊プロジェクトによって生まれた、学生による番組です。2040年には未だ人類が経験したことがない超高齢社会が到来し、私たちの生活はもとより、国の基盤も揺るがすような危機に直面すると考えられています。この「2040年問題」を見据え、自らの発見・学びとそれが将来どこに結びつくのか、未来を担う学生の目線で今とこれからを発信していきます。
IMPACTISM “OUR FUTURE” #2-6: なぜ勉強をするべきか、2400字以内で述べなさい。
Season2 第6回では、学部1年の赤星柚花さんが、“勉強への疑問”をテーマにお話しします。
勉強という行為はなぜ必要なのか、どのような意味があるのか、という問いは、シンプルなようで答えることの難しいものです。人生に決まった正解がないことが広く受け入れられる今、問いを発する立場を考え、どう答えるかに繋げていきます。
時事トピックスは、”パーパス”についてです。”パーパス”とは何か見直し、組織や個人にますます求められる社会的な目的意識に関して考える端緒とします。
→ ポッドキャストを聴く(音声配信ツール「Anchor」)
以下全文
皆さんこんにちは。慶應義塾大学法学部1年の赤星柚花です。
慶應義塾大学KGRIのプロジェクトで活動している私たち学生によるポッドキャスト。2040年という未来までに日々大学で学んでいる私たち学生に何ができるかを話していく番組です。
学問はどのように変化していき、そして今学んでいることはどこに辿り着くのか。時事のニュースや話題を、共に語っていきたいと思います。
「なんで勉強しなきゃいけないの?」これは、私たちの多くが一度はぶつかったことのある問いではないでしょうか。興味のない、将来役に立つか疑わしいことに、どうしてこれほどの時間と労力を費やさなければならないのか。そんな疑問や不満を抱いた記憶をお持ちの方もいらっしゃると思います。もしかすると、勉強は必要なのかと聞かれた経験をお持ちかもしれません。普段から強く意識することはなくとも、ふっと誰かの口から出てくるシンプルで難しい問い。今回は、この問いにどのように向き合っていくか考える時間にしたいと思います。
一口に勉強と言っても、学ぶという行為の対象やその手段は様々です。しかし、ここで想定される勉強とは、高校までの学校や塾の授業・課題・試験といったものでしょう。そして、これから私が勉強という言葉を使うときは、それら座学をまとめて指していると思っていただきたいです。具体的な内容や手法の是非にはあえて立ち入らないことにします。
さて、なぜ勉強をしなければならないのかという質問には、どのように答えれば良いのでしょうか。
ネガティブな意味でよく知られている返答は「いいから勉強しなさい」というものでしょう。相手の様子から、勉強をしたくないために時間稼ぎをしているのだと判断して叱るのかもしれません。どう答えていいか分からなくてごまかすという面もあるでしょう。また、考えても答えは出ないのだから、話す時間があったら目の前の勉強をするべきだと思うということもあり得ます。
他には、「勉強しないとろくな大人になれないよ」という言葉も有名だと思います。いわゆる「良い学校」を出て「良い会社」で働くという人生のモデルを前提として、勉強ができなければ評価されない、という脅しの形をとっているものです。
これらの反応は、勉強をしないと困るのは本人だという心配から来ている場合がほとんどでしょう。とはいえ、質問した側としては、答えをはぐらかされ、とにかく勉強をしろという圧力をかけられたと感じるのではないでしょうか。解決しないまま「そういうものだ」と受け入れて、成長していく。そして質問される側になったときに、自分がされたものと同じような返答をする、ということが起きていると思います。
私は小学生の頃「子どもが勉強しなきゃいけないというよりも、大人が勉強させなきゃいけないんだ」と思い、聞いても仕方のないこととしてとらえていました。学年が上がると目の前の成績が気になるようになって、なぜ勉強をしなければならないのかということは考えなくなりました。そのまま高校生になったのですが、ある人に「なんのために勉強しているか分からない」と言われて、返す言葉に困ったことがあります。今も、この問題に対して、自分が人を納得させるような答えを出すことができるとは思っていません。
しかし、納得できるような「正しい」答えを出そうとする必要はあるのでしょうか。言い換えると、なぜ勉強しなければならないのかという問いは、本当にその答えが聞きたくて発されるのでしょうか。そのようなことがないとは言いませんが、多くの場合、この問いは勉強への不満から生じていると思います。そうであれば、重要なのはその人自身の苦しみが解消されることになります。
自分がなぜ勉強することに対して疑問を持たなかったのかを考えると、気にする余裕がなかったことよりも、気にする必要がなかったということの方が大きかったと気がつきました。私にとって勉強は、ある程度努力が報われる珍しいものでした。大変だと思いつつも、確かに私は「点取りゲーム」を楽しんでいたと思います。自分にとって勉強する理由があるから、勉強が必要かどうかを自分から考えることはなかったのです。
ここから、「どうして勉強をしなければならないのか」という問いが勉強への不満として生じたとき、「どうして自分は勉強するのか」を見つけることができれば本人の苦しみは和らぐのではないかと考えられます。
ただ、この仮説が正しかったとしても、なぜ自分が勉強するのかを考えることは簡単ではありません。そこで、他の人との共有が大切になってくると思います。
私の経験ではないのですが、ある生徒が先生に勉強の意義について尋ねたとき、先生は一度持ち帰ってから考えたことを教えてくれたというエピソードがあります。「こんな質問をしてもどうせ叱られるだろう」と思っていた生徒は、先生が向き合ってくれたことが印象に残って、以前ほど勉強が嫌ではなくなったそうです。
私自身は、母が勉強は選択肢を増やす、やりたいことの入口にたどり着くために一番確実性の高い方法だと話していたことを覚えています。誰にでも当てはまる答えというものではないでしょう。しかし、母が自身の考えを教えてくれたこととして記憶に残っているのです。
大学生となってから、自分で選んだものを学ぶことが中心になりました。やりたいことができるというのは幸せです。今、決められたものを勉強してきた日々を思い返して、その理由を話すとしたら。自分と直接関係のないものを、自分ごととして感じられるようになるから、と言うのではないかと思います。一度触れたことのあるものには親近感が湧くものです。勉強で得た知識があるだけで、「ああ、これがそうなのか!」と同じものがより鮮やかに見えることが経験から分かっています。法律を学びたいものを見つけることにも、歴史や倫理を中心とした様々な科目に関する気づきが影響しました。
実際には、用意した言葉ではなく、相手のために考えた言葉を伝えたいと考えています。勉強に苦しむ人が勉強をする意味を見つけることは喜ばしいですが、他のことをする意味が上回っていることを見つけるのならば、それもまた素晴らしいことでしょう。
今日の気になるトピックス
今回取り上げるトピックスは、パーパスです。英和辞典を引けば目的などの意味が書かれていますが、ビジネスの場で企業が持つパーパスについて見ていきます。近年、パーパスという言葉は急速に広まってきたように思います。しかし、それが何を意味するのかは、必ずしも広まっているわけではないのではないでしょうか。重要なものだと言っても、どこか曖昧な印象があるかもしれません。
実のところ、私自身もまだパーパスとはなにか消化しきれていません。それでも、社会で働いている方からお話をうかがったり、読み物を読んだりする中で、自分の中で見えてきたものがあります。一年前の自分に伝えるように、また一年後の自分が振り返ることを意識しながら、今の自分がエッセンスだと思うことをお話するつもりです。そうすることによって、パーパスに馴染みのない方にも、パーパスへの理解を深めている方にも、この配信から何か見つかるものがあれば、と願っています。
パーパスは、存在意義という言葉に訳されます。そしてその内容には、社会性が不可欠な要素となっています。つまり、パーパスは企業が「何のために社会の中に存在するのか」を表しています。企業が存在する意義は、事業を通じて社会に価値を提供することにあるということです。
この考え方は、これまでになかったものではないのだろうと思います。企業理念の中などに、社会的な意義が示されていたでしょう。しかし、明確に掲げるようになったということは大きな変化です。企業が利益をどれだけ出しているかという面だけでなく、社会的な意義によって評価される風潮が強まっていると言えるでしょう。企業のパーパスへの共感と実行への信頼を判断基準として、消費者が購入するものを選ぶことも増えていくのではないでしょうか。
私の場合は、パタゴニアがその最たる例です。パタゴニアはアウトドア用品の製造販売を行うメーカーであり、またブランド名です。
2019年、パタゴニアは企業理念(Mission Statement)をリニューアルしました。1991年以来、企業理念は「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というものでした。2019年からは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」となっています。パーパスという言葉ではありませんが、「何をするか」に主眼が置かれていた状態から「何のため」という存在意義が語られるようになりました。ビジネスと環境が対立するという考え方から脱却した、地球のためのビジネスという価値観に惹かれます。
実行については、取り組みが明確に示されていて、修理やリサイクル、フェアトレードなどの状況が数値で分かります。
パタゴニアで買ったものからは、自分が納得して選ぶことができたものを使う満足感を得られます。これからも私はパタゴニアのいちファンであり続けると思います。
パタゴニアは今年の9月に組織形態を変更しました。地球が「唯一の株主」であるというメッセージが発されています。事業に再投資されない余剰利益が地球環境のために使われるようになったようです。パタゴニアの話はここで終わりますが、ぜひ調べてみてください。
パーパスという言葉を使っているかはともかく、社会的な意義を軸とするものは企業に限りません。例えば、この番組を生んだ「2040独立自尊プロジェクト」。私が理解する限りでは、このプロジェクトは「個人および国家の『独立自尊』を守り、健全な社会を形成していく」ための存在です。これはパーパスと同じことでしょう。ちなみに独立自尊とは慶應義塾の基本精神なのですが、噛み砕くと、自分と他者にある個人の尊厳を守り、自分で判断し自分の責任のもとで行動するということです。これはあくまで今の私から見た姿ですが、プロジェクトの存在意義を考えることによって、自分の行動を選択するときの指標が得られます。
「なんのためにあるのか」という観点で、身の回りの活動を見直してみませんか。それはきっと、自分が社会の何に関心があるのか、社会にどのように影響を与えて生きていきたいのか、に繋がっていくと思います。
今回の配信はいかがでしたか。
日々の出来事の疑問、社会、経済、文化、環境、国際的なトピックを若者独自の目線で、リスナーの皆さんと共に考え作っていく番組です。時代と共に変化していく学びについて、少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。次回も楽しみにしていてください。
以上、慶應義塾大学1年の赤星柚花がお送りいたしました。