IMPACTISM “OUR FUTURE”は慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)による2040独立自尊プロジェクトによって生まれた、学生による番組。2040年には未だ人類が経験したことがない超高齢社会が到来し、私たちの生活はもとより、国の基盤も揺るがすような危機に直面すると考えられています。この「2040年問題」に対して、大学での学びが将来どこに結びつくのか、未来を担う学生の目線で今とこれからを発信していきます。
IMPACTISM “OUR FUTURE” #2-2:
科学と社会
Season2 第2回目では、修士1年生の菖蒲健太さんが、“科学と社会“をテーマにお話しします。新たな科学技術が導入され続ける社会において、私たちはどのように科学技術と向き合っていけば良いのでしょうか?科学と社会の関係性について一緒に考えてみましょう。
時事トピックスでは、“自動運転“を取り上げ、身近な“科学と社会“の関わりについて考えます。
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以下全文
皆さん、こんにちは。慶應義塾大学大学院修士1年の菖蒲健太です。慶應義塾大学KGRIによって活動している私たち学生によるポッドキャストOUR FUTUREシーズン2。2040年という未来までに日々大学で学んでいる私たち学生に何ができるかを話していく番組です。学問はどのように変化していき、そして今学んでいることはどこに辿り着くのか。時事のニュースや話題を、共に語っていきたいと思います。
皆さんは20年後の2040年の未来と言われたとき、どんな未来を想像しますか?VR技術によって色々な体験を気軽に試すことができる未来、発展した通信技術によって自宅でも勤務先のオフィスと同じように仕事をすることができる未来、メタバースによって気軽に様々な体験を楽しむことができる未来、様々な未来の姿が想像されると思います。
では、未来の日本はどのような姿になっているのでしょうか?未来の日本の姿を考える前にSociety5.0という概念について少しお話しさせていただきます。
Society5.0という言葉を聞いたことがある方も初めて聞いたという方もいらっしゃると思いますが、Society5.0とは内閣府が課題先進国である日本が目指す未来の社会の姿として2016年に初めて提唱した概念になります。Society5.0時代の社会では、複雑化した社会課題の解決が現在の情報化社会のような部分的なIT化では難しいと判断し、課題解決のための社会全体のIT化が目指されています。そのため、Society5.0時代の社会ではフィジカル空間、すなわち現実世界のありとあらゆる情報がセンサーによって収集され、その情報がサイバー空間にビッグデータとして蓄積され、そのビッグデータに基づいてAIが現実世界の判断や行動決定を行います。身近な例として、医療カルテが電子化することで、日本中どこの病院でもすぐに過去の病歴が分かるようになったり、医療カルテとウェアラブルデバイスから得られる利用者の生体情報を繋ぎ合わせることで、病院に行かなくても自宅で健康状態を常に確認できるケースなどが考えられます。世界では産業分野のより高度なIT化に注目が集まっていますが、産業に囚われず社会全体のIT化にいち早く注目して、世界に先駆けて提唱されたSociety 5.0は今後世界のトレンドとして注目されていくのではないでしょうか。
このSociety5.0という概念を聞いて、日本の未来の姿が少し想像しやすくなったのではないかと思いますが、皆さんが想像する未来の日本の姿には共通しているポイントがあると思います。それは、新たな科学技術が導入されているということです。例えば、現実世界の情報を収集するためのセンサー、サイバー空間とフィジカル空間を繋ぐための通信技術、現実世界の判断や行動決定を担うAIなどです。
この話を聞いて未来で新たな科学技術が導入されることは当然じゃないかと思う方は大勢いらっしゃると思いますが、新たな科学技術が導入されることは社会にとってどのような影響をもたらすのでしょうか?
科学技術にメリットとデメリットが存在することは、現在普及している科学技術に限った話ではなく、今後普及していくであろう未来の科学技術を含め、全ての科学技術において当然なことだと言えます。しかし、単純に良い悪いと判断するのは難しいのではないでしょうか。画像解析を行うAIを例に考えてみたいと思います。
近年AIを利用した画像解析が様々な場面で利用されるようになってきています。AIによる画像解析を行うことで、人間が目で確認するよりも素早く画像に写っている対象を高い精度で判断することができるようになっていますが、AIは画像の中のどのような情報から対象を判断しているのでしょうか?実はこれには興味深い研究結果があります。オオカミとハスキー犬が写っている画像からハスキー犬を高い精度で分類することができるAIの判断根拠を調べてみたところ、AIは写っている動物ではなく、画像の背景にある雪景色の情報からハスキー犬を分類していたという研究結果が出たのです。このようにAIが高い精度で画像の分類ができていたとしても、注目したい情報とは全く違う情報から判断している場合があるのです。このようなAIが高い精度で分類できるからという理由で普及することで、適切な判断ができず大きな事故に繋がってしまうというようなケースが考えられます。したがって、事故を起こさないようにするために人間によるダブルチェックを行うなど、使い方を工夫する必要があると思います。また、このようなAIを画像解析の根拠として実際に社会で使うのは難しいですが、人間が今まで見つけられなかった特徴を見つけるという形で応用することもできると考えられます。したがって、社会でAIを利用するときには適切にAIを使うことが重要になるのではないでしょうか。
科学技術の進歩によって快適な生活や個人の幸福が実現されることを目指して今後も様々な科学技術が開発されて社会に導入されるようになると考えられます。そのこと自体は大変良いことだとおもうのですが、科学技術が社会に導入されるときに、科学技術によってどのような影響がもたらされるか、科学者のみならず社会に所属する全ての人が考えて、適切に科学技術を利用していくことが重要であると考えます。もちろん、サイエンスコミュニケーションとして科学者が発信していくことは重要ですが、科学技術は社会の中で利用されていくため、科学者のみならず社会に所属する全員で考えていくことが重要です。そのために、まずは皆さんが2040年の未来の姿やそこで使われる科学技術について家族や友人など周りの人と話してみましょう。皆さんが周囲に発信していくことで、未来や科学技術のあり方について考える機会が増え、社会でたくさんの方が未来について考えるようになるのではないでしょうか。このポッドキャストがその第一歩となれば嬉しいです。
今日の気になるトピックス!
今日の気になるトピックス!今日の気になるトピックスは『自動運転』。
近年、様々な車に自動運転技術が導入されるようになってきており、皆さんも自動運転技術を体験する機会が増えてきていると思います。簡単な自動運転技術として有名な例を挙げると、車線からはみ出しそうになったらハンドルを自動で戻す技術や、高速走行中に前の車に自動で追従していく技術などがあります。
これまでの自動運転技術は自動運転レベルで分類すると先ほど例として上げたようなレベル1,2の技術に加えてレベル3までに分類される技術が導入されています。それらは運転動作を部分的に自動化して必要に応じて人間がシステムの要求に対応するような技術でしたが、2022年6月に中国のIT企業百度(バイドゥ)が世界で初めてレベル4に分類される自動運転技術を有した自動運転EVのプロトタイプを公開し、話題となりました。レベル4ではシステムを利用できる地域に限定はありますが、運転動作を全てシステムが担うことが出来るようになります。したがって、乗車している人が全く運転に関わることなく運転することが出来るようになります。
では、このような自動車が事故を起こしたときには、誰が責任を取るのでしょうか?この自動車に乗車していた方でしょうか?システムを開発した企業でしょうか?システムの導入を認可した政府なのでしょうか?
現在はシステムが原因と考えられる事故の場合は、システムを開発した企業が責任を負う方向で議論が進められています。しかし、システムを開発した企業が責任を負って、保険会社の代わりに今までと同様の保険料を支払うとすると、いわゆる強制保険と呼ばれる自賠責保険のみで数千億円の支払いが生じます。もちろん、事故を起こさないように技術を改善することはシステムを開発する企業に求められますが、事故の発生率を現状の100分の1にしても数十億円を支払う可能性があると言われたときに、皆さんは自動運転技術を開発したいと思うでしょうか?リスクを考えると開発しないことを選択する企業も多くなるのではないでしょうか。また、システムを開発した企業が責任を負うとしても自分が乗っている車が事故を起こしたときに、責任を感じてしまうのではないでしょうか。
このように科学技術は社会との関わりをもつときに倫理的な問題を常に考える必要があります。このような倫理問題も社会全体で考えていくことが重要です。ぜひ自分ならどう考えるかを周りの方と共有してみてください。
今回の配信はいかがでしたか?日々の出来事の疑問、社会、経済、文化、環境、国際的なトピックを若者独自の目線で、リスナーの皆さんと共に考え作っていく番組です。時代と共に変化していく学びについて、少しでも興味を持って頂けたら嬉しいです。次回も楽しみにしていてください。以上、慶應義塾大学大学院修士1年の菖蒲健太がお送り致しました。