日本の未来に立ちはだかる未曾有の危機「2040年問題」。このピンチを大いなるチャンスにつなげるために、「2040コミュニティ」(2040独立自尊プロジェクトコミュニティ/※1)が旗揚げを遂げてから、はや10カ月。
研究者×企業×学生——垣根を超えたマッシュアップの試みの進捗やいかに!?
多種多様な想いを掛け合わせ、化学反応を引き起こす試みだけに、その進展は同時多発的にして、お互いにつながり合っている。ここでいったん、コミュニティの “いま/ここ” を俯瞰してみよう。
2023年2月22日、虎ノ門ヒルズのイノベーション拠点「CIC Tokyo」とオンラインにて、コミュニティメンバー限定イベントを実施。
いよいよ始まる、実際の街を舞台にした大規模な実証実験の計画から、企業や学生の発案による自由闊達&アジャイルな分科会の構想まで。各メンバーの想いをカタチに変えるべく、自走し始めた「2040独立自尊プロジェクト」新フェーズの展望を、ダイジェストにてレポートします。
イベント名
コミュニティメンバー限定イベント
「慶應義塾大学2040独立自尊プロジェクト:2040独立自尊プロジェクトが新しいフェーズに!」
実施日/実施方法
2023年2月22日 CIC Tokyo & オンラインにて実施
記事制作スタッフ
写真:熊谷義朋(フォトグラファー)
編集&文:深沢慶太(編集者)
編集協力:阿部愛美(編集者/ライター)
※所属・職位は2023年2月時点のものです。
司会:今城哉裕&藤瀬里紗
(慶應義塾大学大学院 理工学研究科特任講師、CIC Tokyoプロジェクトリード)
研究者、企業、学生などがフラットな立場でアイデアを寄せ合い、未来を導く「2040コミュニティ」。本日はその進捗と新しい取り組みについて、研究者がリードする「行動変容を促す街プロジェクト」と、企業と学生がリードする計7組の勉強会の発表を行います。
【発表1】
みなとみらい “行動変容を促す街プロジェクト” 発足!
鳥谷真佐子(KGRI特任教授)
「2040年問題」の解決、なかでも健康寿命の延伸には、一人ひとりの行動変容が欠かせません。しかし、個人の努力任せでは限界があります。そこで、環境の側から自然な形で行動変容を促す“お節介な街”のシステムを構想し、三菱地所さんの協力を得て実証実験を進めることになりました。(※2)
この「横浜みなとみらい地区における市民—大学—産業による街づくり “行動変容を促す街”プロジェクト」の新たな取り組みについて、発表したいと思います。
街全体が対象の取り組みとしては、このあと登壇いただくフィルズや、三菱地所、京セラなどの企業、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント(SDM)の山形与志樹さん、慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科の小川愛実さん(※3)らが加わり、よりよい環境や健康につながる行動変容のための実証実験を進めていきます。
一方、オフィス単位で取り組んでいるのが、働きながら行動変容をもたらす“お節介オフィス”の実証実験です。例えば、一人だけ作業量が多かったり、生理痛で具合が悪かったりと、自分から言い出しにくいことを表情や行動から察知し、さりげなくアラートを出します。アロマの匂いをスパイシーなものに変えたり、いつものコーヒーをハーブティに変えたり……いろいろな方法が考えられますね。
企業各社にご協力いただきながら、横浜ランドマークタワーの産学連携イノベーション拠点「NANA Lv.(ナナレベル)」で実証実験を進めていきます。
(※2)参考記事:【7/29開催レポート②】「研究者×産業界×学生 — 動き出した新たな一歩」(後編)
(※3)参考記事:【5/31開催レポート①】「2040コミュニティ」キックオフ(前編)
加藤健郎(慶應義塾大学理工学部 機械工学科准教授)
私からは、具体的な実験方法についてご説明しましょう。
オフィスでの情報の取得には、姿勢計測や顔画像解析、床反力計測、ウェアラブル端末による生体情報の計測などを行います。アラートの方法としては、観葉植物やアバターロボットを動かすなどの方法も考えられますね。有効性の検証方法やデバイスの改良など、企業や協力者の知恵を集めてPDCAサイクルを回しながら進めていきたいと考えています。
鳥谷
一方で考えなければならないのが、私たちの意思決定を技術によってコントロールされる危険性です。必要なのは、実際に市民に体験してもらいながら議論し、それを研究者や開発者にフィードバックしていく姿勢ではないでしょうか。だからこそ、全プロセスの記録を可視化しつつ公開する。そうすることで、技術に人々が振り回されるのではなく、市民の検証を経なければサービスとして生き残れない仕組みを実現できれば、産業のあり方自体を民主化していけるかもしれません。
最初の市民会議は、透明人工皮膚デバイスをテーマに3月24日に実施します。“お節介オフィスプロジェクト”の事務局スタッフも募集していますので、興味のある方はぜひご連絡ください。
浅井誠(KGRI特任教授)
私からは、2023年度に開催予定のイベント「2040EXPO(仮称)」について発表します。
「2040独立自尊プロジェクト」は新年度より、新たな体制に突入します。コミュニティメンバー同士の協働による取り組みと対外的な発信に力を入れるなかで、「2040EXPO(仮称)」は市民との接点となる大型イベントの計画です。
詳細は構想中ではありますが、研究プロジェクトのプロトタイプやコミュニティメンバーによる発表、協賛企業やスタートアップ、学生による取り組みを紹介するブースなど。ぜひ一緒に「2040EXPO(仮称)」を作り上げていきましょう!
【発表2】
コミュニティメンバー7組の勉強会ピッチ!
今城
続いては、コミュニティから立ち上がった7テーマの勉強会について、各メンバーから発表してもらいます。各勉強会は4月に発足し、3カ月ごとに期間を区切って発表を行っていく予定です。
①「フェムテックを通して月経をポジティブに」
浅井しなの(株式会社asai CEO)
私は中学生の頃から意識が飛ぶほどの生理痛に悩まされ、子宮腺筋症が見つかり、24歳で卵子の残数が閉経間近と診断されるなど、女性特有の悩みを抱えています。その経験から株式会社asaiを設立し、経血を管理して月経異常を知らせるアプリを開発したり、TikTokでライブ配信をしたりしています。
いうまでもなく、生理は社会的な問題です。そもそも生理は女性の体に備わったポジティブな働きのはずなのに、なぜ不安や不満、不便など“不”な話ばかりなのでしょうか? 生理を素晴らしいと感じられる世界を、どうすれば実現できるのか。フェムテックを単なる流行り言葉にせず、人々の生活を豊かにするための道筋を探りたいと考え、勉強会を立ち上げました。
性別や年齢、背景は問いません。ぜひ一緒に考えていきましょう!
②「カーボンニュートラルとウェルビーイング」
飯田百合子(株式会社フィルズCEO) ※オンライン参加
私は慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の山形与志樹研究室でカーボンニュートラルの未来について研究する傍ら、株式会社フィルズを設立し、マイボトルの利用促進を通じてプラスチック削減を目指すオンラインプラットフォームの構築に取り組んでいます。具体的には、マイボトル持参でCO2をどれくらい削減できたかをアプリで可視化したり、三菱地所、京セラ、SDM、「2040独立自尊プロジェクト」などと連携し、みなとみらい地域でイベントを実施しています。
脱炭素のアクションは、人々のウェルビーイングと密接に関わる問題です。環境を守りながら人間も豊かになれる社会を目指して、みなさんと未来のヒントについて話し合う機会になればと思っています。
③「幸せの多様化とこれからのメディア」
合崎颯太(京都大学 総合人間学部2回生) ※オンライン参加
メディアの歴史と現在の状況を学び、今後必要とされる新しいメディアについて考察するために、勉強会を立ち上げます。そもそもメディア(媒体)とは伝達手段のこと。古くは絵画や彫刻に始まって、写真や動画など、さまざまな形で人類に大きな影響を与えてきました。今後はAIや行動記録データなどを含めながら、大きな変化を遂げていくでしょう。
例えばXRやメタバースをはじめとする新技術や、現代アーティストのナム・ジュン・パイクによる考察「ステーショナリー・ノマド(定住する遊牧民)」などの考え方、Web3に象徴される分散型社会への注目、AIの進展など、論点は多岐にわたります。
私たちの生活はメディアによってどう変化していくのか。歴史をたどり、展望について議論しながら、社会の行方について楽しく学んでいきたい。領域を問わず、幅広い参加をお待ちしています!
④「テクノロジーとこれからの社会」
荒川稜子(KGRI「2040独立自尊プロジェクト」メンバー)
人類はどこから来て、今どこに立ち、今後どこへ行くのか。画家 ポール・ゴーギャンの代表作に『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』という絵画がありますが、私自身、このテーマにずっと心惹かれながら、日本とイギリスで法律を勉強し、DE&I(Diversity、Equity、Inclusion/多様性、公平性、包括性)に関心を寄せてきました。その観点から、テクノロジーの進展が社会にもたらす影響について、さまざまな角度で議論したいと考えています。
テクノロジーによるリスクを減らし、メリットを最大限にするために、私たちは何をするべきか。自分たちで未来を何とかしてみたいと思う方はぜひ、新技術の社会受容にまつわるケーススタディやワークショップ、さまざまな視点からのディスカッションを通して、一緒に未来について考えていきましょう。
⑤「日本の“食”の未来を考える」
永谷嘉孝(株式会社永谷園 営業本部)
永谷園は「お茶づけ海苔」でご存じの食品メーカーです。みなさんに挙手をお願いします。「今日、お米を食べた方は?」。
……半分近く手が上がりましたが、もし“お米”がなくなってしまったら、みなさんどうしますか? これは決して、非現実的なことではないのです。今、日本の米農家など一次産業の現場はどのような状況に置かれているのか? そして、日本の食の魅力とは何なのか? これらを深く理解し、技術や環境との関係やどんな工夫ができるのかを考えていかなければなりません。
この勉強会では、生産現場の状況に始まり、食べ物が健康にどう作用しているのか、日本人のライフスタイルの変化や海外の評価など、作るところから食べるところまで、みんなで一緒に向き合っていきます。本日は新商品のお味噌汁もご用意しました。日本の“食”の明日について、ぜひ一緒に語り合っていきましょう。
⑥「ゲームの可能性を探ろう〜ゲームとWellbeing〜」
泰岡諒治(東洋大学 経済学部1年)
今や多くの企業が、革新的なアイデアや発想を引き出すためにウェルビーイングを重要な経営課題として捉えています。そこで注目されているのが「ゲーミフィケーション」です。こうした背景から、ゲームを実際にプレイしながらデータを収集し、ウェルビーイングとの関係を解明することで、社会実装につなげていきたいと考えています。
構想としては、「マインクラフト」をプレイしながらネットワーキングを行い、幸福度の変化を自分で感じてみる。さらに、慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科の満倉靖恵教授が開発した脳波解析装置を装着し、ゲームが人の心に与える影響を測定しながら、「2040年問題」の解決の糸口につなげたいと思います。ゲームに興味がある方に限らず、まずはぜひ参加してみてほしいです!
⑦「老いるのが怖くない社会を作るために私たちができることは何だろう?
シニア向けテーマパーク『シルバーニア』」
金子萌(株式会社想ひ人 代表取締役)
みなさん、老いや病気、障がいについて怖いと思いますか? 私は、17歳の時に父が44歳で若年性パーキンソン病と認知症を発症してから11年以上、ヤングケアラーとして在宅介護をしてきました。そして昨年、父と母と3人でハワイ旅行に行きました。要介護4の父も、水陸両用の車椅子に乗ってハワイの海に入ることができたんです。(※4)
この話をすると「本当にそんなことができるの?」と驚かれます。問題は、介護のイメージがネガティブすぎて、こうしたケアプロダクトの認知が広がらず、市場が発展しないこと。だからこそ、美容や身だしなみ、食などにまつわるケアプロダクトを楽しく体験し、希望あふれるサードライフを描くことのできる場所を作りたい。それが、シニア向けのテーマパーク「シルバーニア」の構想です。
他に先駆けて超高齢化を迎えた日本から、世界をリードする一大産業が生まれる可能性は多いにあります。ぜひご一緒に「老いるのが怖くない社会」を実現していきましょう。
(※4)参考:株式会社 想ひ人 公式サイト
コミュニティ発、走り始めたそれぞれのビジョン
藤瀬&今城
7組のみなさん、ありがとうございました! この後は会場のみなさんによるネットワーキングの時間です。その前に「2040独立自尊プロジェクト」統轄リーダーの安井正人さんから、メッセージをお願い致します。
安井正人(慶應義塾大学医学部教授)
一人ひとりが自分の枠を超えようとする熱気が、いよいよ具体的なプロジェクトにつながりつつある。その様子に、とてもワクワクしました。新しいチャレンジには失敗も付き物ですが、その時はお互いにフォローし合い、成功したら応援し合ってほしい。未来についてみんなで一緒に考えながら、引き続きチャレンジしていきましょう!