2022年2月25日、KGRI所長の安井正人先生に学生2名がインタビューを行いました。学生の「そもそもこの組織って何のために作られたの?」を疑問に始まったこの企画。それを知るなら、トップに話を聞くのが手っ取り早い! ということで、安井所長との対談の機会をセッティングしていただき、お話をお聞きしました。KGRIや「2040独立自尊プロジェクト」、今後の展望まで、学生目線の率直な疑問で切り込んでいきます。(ぜひ動画をご覧ください)
そんな対談を終えたインタビュアーの学生二人が、お話を振り返って抱いた印象を自由に語り合いました。キーワードは「2040独立自尊プロジェクトと学生の未来」。私たち大学生が描く、今後の学生と教育機関とのあるべき姿を、プロジェクトの展望をもとに読み解いていきます!
記事制作スタッフ
文:高橋栞菜(慶應義塾大学法学部法律学科4年生)、松本有希菜(慶應義塾大学大学院理工学研究科修了)
動画&写真:鳥谷真佐子(KGRI特任教授)、加藤靖浩(KGRI特任講師)
実施日/実施場所
2022年2月25日 KGRIにて実施
※所属・職位は2022年8月時点のものです。
安井正人(やすい・まさと) Top写真中央
KGRI所長。1989年、慶應義塾大学医学部卒業。スウェーデン王国カロリンスカ研究所大学院博士課程(PhD)、アメリカ・ジョンズホプキンス大学医学部講師、 助教授を経て、2006年に慶應義塾大学医学部薬理学教室教授に就任。専門は小児科学、薬理学。水チャネル、アクアポリンの研究に従事し、アルツハイマー病と睡眠との関連性についても研究。近年は国際交流推進事業にも取り組み、18年よりKGRI所長としてグローバルリーダー若手育成にも力を注ぐ。現在「2040独立自尊プロジェクト」統括リーダーとしてプロジェクトを推進している。
高橋栞菜(たかはし・かんな) Top写真左
慶應義塾大学法学部法律学科4年生。山本龍彦研究会所属。高校生の時よりWebライターとしても活動中。2021年4月よりIMPACTISMに参加。
松本有希菜(まつもと・ゆきな) Top写真右
エコール・サントラル・パリと慶應義塾大学大学院理工学研究科のダブルディグリー。慶應義塾大学大学院理工学研究科を2021年9月に修了し、現在は戦略コンサルティングファームに勤務。21年10月よりIMPACTISMに参加。
<インタビュー動画(全編)>
【学生対談】イノベーションは他者から生まれる。
研究と社会をつなぐ「KGRI」
高橋:安井所長と今回お話ししてみてどうだった?
松本:すごく気さくな方だったよね! 自身の研究内容についても楽しそうに語られていて、聞いていてわくわくした。
高橋:うんうん。プロジェクトの理念の通りに、学生との対話を楽しんでくださっているのが伝わってきたよね。
松本:学生時代に「やってみたい、知りたい!」という好奇心を受け止めてくれる場所があることは、すごくありがたいと思う。取り組みたいことがあっても、どうしたらいいのか分からなかったり、失敗を恐れて勇気を出せない学生の背中をきっと押してくれる存在になるだろうなって。
高橋:同時に、新しい専門分野との出会いの場にもなっていくんだと思った。安井所長が何回も「他学部との研究の連携」を口にしていたのが印象深いんだよね。
「自分たちの研究が、どう世の中の役に立つのかという観点で考えていくことがすごく重要なんですよね。そのためには自分の専門を突き詰めるだけじゃなくて、他の専門の先生方と一緒に取り組んでより良い世の中を目指していく必要がある。それがKGRIの一つの大きなミッションなんです」
高橋:自分の専門分野だけを突き詰めることも大事だけど、そこから一歩進んで社会課題を解決するためには、他の専門分野と一緒に取り組んでいくべきって考えは素敵だな。単純に、「すごく楽しそう!」ってわくわくした(笑)。
松本:たしかに。研究が進めば進むほど、どうしても分野は細分化してしまうから、一度俯瞰的な目をもって「自分のやっていることが社会の中でどこに位置づけられるのか?」を意識することが大切なんだなって気づいた。
高橋:そう、研究の成果をいざ現実社会で実践していくとなると、自分たちの研究分野内では想像もしなかった問題が生まれてくる。だから異分野同士が協力することで初めて、真にイノベーションを起こせるんだろうなって。
研究を大学内の学問だけで終わらせるんじゃなく、社会の中で展開していくためにはいろんな分野が協力していく必要があるんだなってわかったよね。
「例えば新しい科学技術を開発したとして、それを社会で使うためには倫理的に許されるのかということが問題になります。アメリカだと、技術開発研究の際は、同時に倫理的問題や法整備に関しても専門家が集まってチームを組むんです。そのほうがより研究が進んでいくんですよ」
松本:そういう意味でも、このプロジェクトは他の研究テーマの専門家を間近で見られて繋がれる、人生においてもなかなかない貴重な機会だと思う。社会人の一歩手前の大学生だからこそ、社会との接点を持っておく場所にいることが肝心なんじゃないかな。
高橋:大学がイノベーションを生む活動に積極的に取り組んでいるのは、好奇心を後押しされているみたいでうれしいよね。
松本:本当にそう思う。私は学部時代はフランスの大学に通っていて、大学院から慶應に来たんだけど、私が通っていたフランスの大学の学生数は元々2000人くらいだったんだよね。でもそれだと、論文数などの条件をクリアできなくて、なかなか世界ランキングの上位に上がることができなかったの。だから他の大学と合併をして、5000人くらいに増えたんだけど、それでも慶應の3万人にはまだまだ届かない。
高橋:なるほど、人数が多いことそれ自体が大学のアドバンテージになりうるんだ。
松本:リソースも増えるし、ネットワークも広がるからね。ただ一方で、組織が大きすぎて専門分野が細分化するから、なかなか分野間でシナジーが生まれにくいという問題もあるんだって改めて感じた。
高橋:私も法学部の研究会に所属しているけど、他の学部の研究分野と関わることは少ないなあ。
松本:だからこそKGRIは、この壮大な組織の分野間の架け橋になって、それぞれの専門家が共同できる環境を整える重要な役割になっていくんだろうね。
協力の輪は海を越えて
松本:2040独立自尊プロジェクトの最終的な目標を「超少子高齢化」に設定した理由も面白かった。
「今の日本の一番大きな課題は、なんといっても少子高齢化問題です。他の国よりも圧倒的に高齢者も多く、世界でもトップクラスの課題を抱えているのは間違いないですよね。だからこそ、どう日本が乗り越えるのかに注目が高まっています。日本がこの課題解決の成功モデルを提唱できれば、グローバル社会に大きなインパクトを与えられるんですよ」
高橋:グローバル社会での日本の地位を確立するために、社会課題をむしろ味方にしていく……まさに、ピンチはチャンスって感じ(笑)!
松本:そうそう(笑)! このプロジェクトをきっかけに、海外との交流もさらに進んでいってほしいと思うな。
高橋:たしかに、安井所長も海外経験での出会いをすごく大切にされていたよね。
「日本の学生はもっと自由に活動していってほしいですね。決まったルートから外れることを恐れている人が多いと思います。だからこそ、このプロジェクトは学部のカリキュラムなどの既存の枠に縛られずに、様々な分野との出会いの受け皿である必要があるんです。僕も、アメリカに行った時の、友人、研究所のボス、研究のテーマ……そこで出会ったすべてをずっと大切にしています」
松本:学生と研究者をつなげていく場だけじゃなくて、海外の研究者や学生を巻き込める組織になってほしいな。日本人は学校で習った後は英語を使わない人も多いし、日常英会話のレベルもまだまだ低いと感じているんだよね。
新型コロナウイルスの影響下でも、他国が留学生の渡航を再開していても、日本は留学生のためのビザの発給をしばらく止めていたし、留学の重要性への理解度が低いのかなと思う。ただ、小さい時からずっと日本にいると、国際交流意識の足りない部分に気づくのはなかなか難しいことだよね。
高橋:私も、留学になんとなく不安を感じていて挑戦できてないんだよね。国際交流の重要性は、漠然と感じてはいるけど、明確に足りていないと自分の中で危機感を抱くことはなかったかも。
松本:安井所長みたいに海外経験があるからこそ気づけることもたくさんあると思うし、海外との接点を増やしていく必要があると思うな。だからこのプロジェクトみたいに、積極的に海外に発信して、そこから海外との接点を増やす取り組みは今後重要になりそうだね。
高橋:そう思う! 最終目標がグローバル課題の解決だからこそ、学生や研究者を飛び越えて、全世界と協力していける場になったらいいな。
学生を巻き込んだエコシステムへ!
私たちが描く2040独立自尊プロジェクトの未来
高橋:安井所長、今後のプロジェクトの構想についてもお話ししてくれたよね。
「学生時代の特権は、ある程度の失敗は許されることなんですよ。まだまだ日本の学生は正解であることを求めすぎる傾向があるけど、どうせ僕くらいの年齢になるころには、そうそう失敗できなくなっちゃうんだから(笑)、ある程度失敗の経験も積んでほしいと思います。そうやってこのプロジェクトでトライアンドエラーを繰り返しながら、自分のやりたいことを見つけてほしいです」
松本:うんうん。対談中にもあったけど、学生は社会人と比べて背負うリスクの量が圧倒的に少ないから、ここは「研究者から話を聞く場所」じゃなくて「トライアンドエラーの場所」であってほしい。
高橋:あ、それは思う。ここで得たことをもとに研究したり、発信したり、なんなら起業する学生なんかがいたらとても楽しいな。ここでは授業を受けるだけの学生じゃなくて、一緒に課題に取り組む一員として活動していきたい。
松本:そうやって学生が研究者に情報を一方的に求めるんじゃなく、研究者も学生からアイデアをもらうことで、イノベーションが生まれると思うな。
高橋:たしかに。実際に2040年に少子高齢化に直面するのは今20代である私たちだし、他人事ではいられないからこそ、私たちの声もちゃんと反映させるために積極的に意見の発信活動をしていきたい。
松本:失敗が許される学生という今の私たちのポジションは「おいしい」わけだから、活用しないと損だよね。たくさんインプットとアウトプットを繰り返して、ひたすらトライアンドエラーの経験を重ねるべきだと思う! そうやって、学生側が利用するだけじゃなく、学生を巻き込んでいくエコシステムを作り上げていきたいな。
高橋:「このプロジェクトで一発面白いことやってみよう!」ってくらいが理想かも。まだまだ発展途上なプロジェクトだからこそ、学生も研究者も関係なく一緒に作り上げていけるし、そんな仲間に出会っていきたいね!